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3章 付表 |
7章 新たな医療事故責任体系の提案
7-1 医療事故に対する責任追及の在り方医療事故に対する刑事介入の増加は、医療界の閉鎖性にメスを入れるという一定の役割はあったものの、医療分野に混乱をもたらし、医療の萎縮を生み、医療安全の観点からも、好ましくない結果を招いている。しかし、国民生活に好ましくない結果を招いているからと言って、医療だけを、刑法適用において例外扱いするべきではないという意見にも耳を傾けるべきである。むしろ、法益保護、社会の安寧維持の目的に照らして、医療事故に対してみだりに刑事介入することなく、必要な刑法の適用はどうあるべきか、明確にしておく必要がある。 1)刑事責任追及は原因究明に役立たない刑事処分の目的はあくまで個人の責任追及であり、たとえ病院の組織や多職種の連携ミスに真の原因がある場合にも、結果的に特定の「犯人捜し」をするだけに終ってしまう。 2)個人の責任とシステムエラー病院システムに過誤の原因がある場合に、個人の刑事責任を追及するとすれば、原因究明はおろか、医療安全の阻害要因にさえなりかねない。もちろん、医療過誤事件のすべてがシステムエラーによるものではない。
さらにエラーの事実ではなく医療担当者および医療機関の管理者の倫理的な問題を評価してみた(図9)。試みの評価であるが、医療担当者個人の倫理的責任はほとんど問題視すべきでないというものから非常に強い非難が集まるものまで傾斜があるのに対し、病院責任者(管理者)の倫理的責任については一様に高く問う傾向が出る。研究班では当初、「個人の過失因子が大きいかあるいはシステムの因子が大きいか」というシーソーのようなイメージで問いを立てていたが、そのようなイメージは判例検討のなかで成り立たなくなった。 以上の評価検討は、必ずしも公平なものではないが、刑事医療過誤事件として扱われてきたもののなかには、刑事事件の成否は別にして管理者責任を問うべき事件と、管理者および医療担当者両者の責任を問うべき事件があることが予想される。 *エラーについては、通常「行動が意図したようにいかなかったものと、意図した行動が間違っていたもの」(Reason J, 1990)があるが、ここでは前者のみをエラーとしている。 まず、注目されるのは、約3分の1が「確認ミス」で「誤認」によるものを加えると40件を越えることである。これに「申し送り」時のミス等を加えると半数近くが「うっかりエラー」をきっかけにしたものであることがわかる。 7-2 システムエラー1)ヒューマンエラーは防ぎうるかいわゆるヒューマンエラーは無くそうとして無くならない人間に備わった限界のようなものだが、繰り返し起こっているカリウム製剤誤投与事故をヒューマンエラーの例として示しておきたい。重大な事象のヒューマンファクターに関する研究では、事故の起点となった出来事を検討して、システムのどの部分が破綻したのか、なぜその事象が起きたのかを検討する(重大事象分析;critical incident analysis)。システムやプロセスが、どこで、なぜ破綻するかを明らかにするため、エラー発生のプロセスを原因、状況、条件などから分析するのである。これにより安全なシステムの構築、エラーを生みやすい条件の改善が可能になる。 【事例1】平成13年1月、准看護師が6歳の女児のじんましんの治療に、医師が指示した塩化カルシウム液(大塚塩カル注2%)を、塩化カリウム液(コンクライトK)と誤認し、これを原液で13mL右手背部静脈内に注射した。直後に、女児の容体に急変(高カリウム血症による心肺停止状態)が認められたが、医師は速やかに救急蘇生措置を講ずることなく、結果、加療期間不明の低酸素脳症による重篤な後遺障害(両上下肢機能全廃、躯幹麻痺及び咽喉機能不全など)を負わせたというものである。2、3)准看護師及び医師がいずれも業務上過失傷害罪に問われ、准看護師は禁錮8月、医師は禁錮10月の実刑判決が確定した。 【事例2】平成10年8月、医師が85歳の患者にL-アスパラギン酸カリウム(アスパラK注射液)の静脈注射を指示する際、注射指示書に「IV」(静脈注射の意)としか記載しなかったため、准看護師が同注射液の混合液を患者に急速静注し、ショック状態に陥らせて死亡させたというものである。カリウム製剤は、急速静注すると不整脈や心停止を起こすおそれがあるので、希釈して点滴静注するよう指示すべきであったとして、医師は業務上過失致死に問われ、罰金30万円が確定した。 【事例3】平成14年7月、准看護師が71歳の患者に、塩化カリウム製剤(K.C.L.)を輸液と混合希釈することなく静注したため、高カリウム血症による心停止により患者を死亡させた。この事件では、医師は他の点滴液と混合して点滴する旨入院処方箋に記載していたにもかかわらず、准看護師がこれを守らなかったもので、准看護師は業務上過失致死に問われ、罰金50万円が確定した。 【事例4】平成14年6月、2人の看護師が69歳の急性骨髄性白血病の患者に、医師から投与方法等が記載された注射箋を手渡され、看護師経験2ヵ月のYが「混注」と書かれた注射箋の意味を理解しないまま点滴チューブに取り付けられた三方活栓から塩化カリウム液を希釈せずに直接注入し、患者は高カリウム血症による急性心機能不全により死亡した。血中カリウム補給のため塩化カリウムを点滴静注する際、他の薬剤と混合希釈して静注すべきであり、同病院には確認のための過誤防止マニュアルが存在した。先輩看護師であるXは経験のないYに対して、投与方法を指示するに当たり「混注」と指示しただけで、具体的で明確な方法を指示しなかった。この事件では、看護師はいずれも業務上過失致死に問われ、Xは禁錮1年(執行猶予3年)、Yは禁錮8月(執行猶予3年)が確定した。 こうしてみると、いずれも、その端緒は単純なエラーであるが、刑事では当該医療者の責任だけが問われ、エラーを引き起こす原因が指摘されることはない。単純なヒューマンエラー(主に誤認や確認ミス)の再発を防止するためには、医療機関はより安全な医療システムを構築するよう、さらに、(主に判断ミスを防止するために)医療者及び医療機関は医療者が心身ともに健全で、安全な業務遂行ができる状態にあるよう努めることが前提となる。安全な医療を確保するためには、シンプルヒューマンエラーを許した医療機関の安全管理の責任を自ら明らかにし、医療者個人に再教育を課すことも必要であり、私たちは、新たに創設される仕組み(地方医療安全委員会)のなかに医療関係者の自律的機能として組み込まれることを提言する。 2)うっかりミスの安全管理責任ところで、ヒューマンファクターによるエラーはある程度、誤認、確認ミス及び判断ミスなどに類型化できるが、これに従えば、事例1は誤認、その他の3例は主に確認ミスという範疇になろう。カリウム製剤誤投与の他に、経口剤を静脈注射するなどの薬剤誤投与や薬剤過量投与、異型輸血、脊髄造影剤誤用、誤挿管や医療機器誤操作などについても、それらの多くの部分が誤認や確認ミスに属するものである。 7-3 業務上過失致死の適用範囲1)医療安全委員会と刑事介入厚労省で設立が検討されている原因究明機関は、人的、物的、資金的にも脆弱である。これに対して日本の警察、検察は、全国的に整備され、強権力を有していて、比較にならない。このため、時の政策に左右されて、積極的に刑事介入がなされるとすると、医療安全も、再発防止も、かけ声だけになってしまうおそれがある。
で、但し、どれも争う余地のないほどに明確な場合である。 業務上過失致死傷の「過失」は、一義的に定められていないため、その時々の社会情勢に応じた政策的配慮から適用の範囲を拡大する可能性は否めない。その上、医療の不確実性から行為規範を規定するのは、なかなか難しく、適用が拡大すれば、医療は萎縮するであろう。そのため、告訴があった場合でも、上記I、IIの類型以外は、地方医療安全委員会において、調査分析、評価を行う。警察も、事故調査結果報告書が出るまで捜査を控え、事故調査結果報告書が出た段階で、この結果を踏まえ「業務上過失」に該当するかを警察なりに検討することになる。このような流れに国民の納得が得られるためには、地方医療安全委員会の原因分析評価が充分客観的なものでなければならない。 2)医療事故における「業務上過失致死傷罪」のグレーゾーン医療水準を大きく逸脱し、医療倫理の観点からも許容されない医療介入の結果生じた場合や、過失そのものに倫理的な欠陥はないにもかかわらず、患者の取り違えなど重大な法益の侵害があった場合等は、さらなる検討を要する。 これと同様に、法の適用においても「過失」のように解釈を伴う規範的構成要件では、適用について複数の異なる解釈が可能なグレーゾーンが存在する。複雑化高度化している医療の中で、死亡の責任を個人に限定していくことは困難で医療現場の感覚と大きな乖離がある。それが、善行原則に則って行われている医療者を不安にし、医療の萎縮を招く原因の一つになっている。 7-4 刑事医療過誤事件の再検討以下、これまでの医療過誤刑事事件について、上記I、IIの類型に当てはめて検討を試みる。 1)刑事事件相当(Iの類型)【胎盤鉗子による人工中絶子宮破裂事件】(No. 38)平成13年5月27日、妊娠5ヵ月の自らの次女(17歳)に対し、すでに妊娠中期のため母体に危険があり、法律上も禁止されていることを十分に認識しながら、胎盤鉗子を用いた人工妊娠中絶手術を休診中の自己の診療所で行った。その結果、同女の子宮を破裂、父である医師は気付かないまま手術を終了し、同女が危篤状態に陥ってから、救急車で病院へ搬送したが、出血性ショックにより同女を死亡させた。 このケースは、医師である父が、妊婦である娘(17歳)妊娠5ヵ月の人工妊娠中絶手術を行ったが、場所は、休診中の自己の診療所で、人工妊娠中絶方法も、妊娠中期における方法としては、子宮破裂を惹き起す危険が高い胎盤鉗子によるものであった。 【精神科通院患者搬送時窒息死事件】(No. 94)平成13年1月13日午前6時30分頃、精神科医が、通院患者(31歳)を他の病院に入院させるため、搬送中に自傷行為に及ばないよう、呼吸促進剤テラプチクを注射し、口腔内に10枚のティッシュペーパーを丸めた塊及びタオル片を押し込み、ガムテープで口を塞いだ上で、呼吸抑制作用を有するホリゾン10を含む注射液を静脈注射し、さらにビニール紐とガムテープで両手、両足を縛り、全身を毛布で包んで後部座席に仰向けに横たわらせた。そして、普通自動車で同病院まで搬送するに当たって、医師自身は同行せず、職員2名に運転と同行を担当させた。その結果、搬送中に患者を呼吸困難に陥らせて窒息死させた。 この事案では、自傷行為のおそれがあったにしても、口腔内にティッシュペーパー10枚を丸めた塊やタオルを押し込み、ガムテープで口を塞ぎ、呼吸抑制薬を静脈注射したら、健康な人でも窒息の危険性が非常に高い。それにもかかわらず、自ら同行せず、手足をビニール紐とガムテープで縛り、全身を毛布で包んで搬送することは、医療行為としての相当性を大きく逸脱している。 2)類型Iに比肩するが、まず医療安全委員会で扱うべき「過失事案」類型Iに近いが、警察に通報することなく、まずは医療安全委員会でその原因を分析するべき事案がある。先のグレーゾーンのケースである。ただし、神谷らの研究(『医療事故の責任』毎日コミュニケーションズ刊)においても、過失責任を肯定することに、賛同が多かったケースである。ただ、これらのケースも、充分な検討を加えると、直ちに刑事責任によるのでなくプロフェッショナルオートノミーによる対処や行政処分によってまず対応していくことに意義を見出せた。 医療行為には、患者の体に切り込む手術のようなものから、放射線照射や投薬のようなものまで、各種の侵襲行為が含まれている。これが刑法の傷害罪に当たらないのは、正当業務行為として違法性が阻却されるためであるが、違法性阻却の要件として【1】患者の同意、【2】医学的適応性(医療行為が患者の生命・健康の維持・増進にとって必要であること)、【3】医術的正当性(医療行為が医学上承認された医療技術にしたがって行われること)が挙げられる(山口厚「刑法総論」)。ある医療介入や医学判断が、医学的適応性や医術的正当性を欠いているか否かを判断は、その時代の医療の常識を共有している医師が公正に判断するのが適している。 【新潟整形プレドパ過剰投与事件(No. 46)】本事件は、平成12年4月に85歳の女性に対する膝関節全置換手術の手術後に、収縮期血圧が200mmHgと高血圧状態であったにもかかわらず、昇圧剤である塩酸ドパミンを含有するプレドパ注200を通常使用量上限の9倍である毎時540ml投与した結果、過量点滴による急性肺水腫で死亡させた。判決文によれば、この投与の際には、看護師や薬剤師からプレドパの使用量としては多すぎると再三指摘されながら、それを無視していたとされている。しかし患者が85歳の高齢者であったことを考慮すれば、点滴投与されたものがプレドパ以外の輸液であったとしても、その際の投与量は致命的ともなりうる過量投与であり、これが禁忌であることは1年目の研修医であっても必修の事項である。 しかし従来の制度では、刑事処分の後に行政処分が行われるのが通例となっており、本件では事故から3年を経て、禁固1年執行猶予3年の判決が下され、その10ヵ月後に医業停止1年6ヵ月という処分が行われている。すなわち刑事係争期間を含めて行政処分が下されるまでの4年近くの期間、事故当時と同じ条件で、すべての医療行為が実施可能であったことになる。すなわちこの期間に同様な事故が繰り返された危険性があったことになり、刑事及び行政処分は一定期間全く再発防止に寄与していなかったことになる。また1年6ヵ月の医業停止処分の後には、再度同様な医療行為を行う可能性が十分考えられる。 ではどのようにすれば再発防止が最も確実に行えるのであろうか。 3)医療安全委員会での評価が必要だが、極めて過失の重い事実【横浜市立大学患者取り違え事件(No. 18)】平成11年1月11日、病棟看護師Xは、入院中の心臓手術をする患者A(74歳)と肺がんの開胸生検等をする患者B(84歳)を一人で手術室まで搬送し、ハッチウェイと呼ばれる患者受渡し搬送口で手術室看護師Yに引渡した。病棟看護師は、患者A引渡しに当たり手術室看護師Yが同患者の氏名を知っていると思い、氏名を確実に伝えず、続いて引渡した患者Bの氏名も伝えないまま、別の看護師に姓の特定だけで患者とは別にカルテ等を渡した。 どのような状況下でも、取違えられた人が適応のない手術を受けることがあってはならない。しかし、多くの人が関与して生じたケースで、事故原因が初めに誤った人または死亡という結果発生の直近にかかわった人の個人の責任によるとは直ちに言えない。どこに問題があったのかを十分分析して第二の取違えを防止する必要がある。そのため、このケースの場合にも、まず最初は医療安全委員会で取扱うことになる。(詳しくは8-2(2)参照) 4)刑事事件相当類型II【東京女子医大人工心肺機器欠陥事故、証拠隠滅事件(No. 67)】主治医兼執刀医で指導的立場にあった医師が、患者の死亡は、人工心肺装置を操作していた医師のミスによると考え、刑事責任を問われる可能性があることから、自らまた看護師及び技師にも指示してカルテを改竄した(東京女子医大病院カルテ改竄事件、付表事件番号67)。このケースでは、検察はカルテを改竄した医師を、証拠隠滅罪(刑法104条)をもって訴追した。仮に、この医師のミスにより死亡した場合に、自己の刑事事件にならないようにカルテを改竄したときには、現刑法の適用はない。東京女子医大の主治医兼執刀医は、カルテ改竄によって処罰されたのではないことには注意を要する。 7-5 医療技術の習熟プロセスにおける事故防止医療技術の進歩とともに、これまで治療が困難な疾患の治療が可能になった。平均寿命の延長とともに、「生命の質」への期待も広がり、より苦痛の少ない治療、侵襲の少ない医療技術へのあくなき追求もあり、人に優しい治療/より安全な医療の実現を目指した医療技術が日々試され、実行されている。 1)新しい医療技術、機器におけるリスク情報の収集と共有新しく導入された医療手技、医療機器や薬剤の管理および使用については、治療効果や安全性向上等の診療上の利点が期待される一方で、複雑な操作や使用方法が求められるため過誤や有害事象が起こる因子が潜在していると考え、軽度の有害事象例やニアミス例も含めて、積極的なリスク情報の収集に努めるべきである。こうした情報は速やかに関係医師により共有され、安全性の向上に資するよう利用されなければならない。学会や医療技術に関する研究会、特定機能病院等の高度医療機関にこうした役割を担うことが期待される。前臨床段階では治験、臨床試験等、さらに個々の医療機関への導入にあたってはピアレビューがなされ、単独あるいは少数の医師による独りよがりの意思決定プロセスは避けなければならない。臨床手技として一般化した後でも継続的にリスク情報が収集される仕組みが必要である。 2)医療提供者によるピアレビュー、教育訓練システムの構築ピアレビューを行う機関としては学会や研究会、特定機能病院などの医療機関が想定される。安全性の向上、技能の向上を図るため教育システムの運営、認定機構とこうした教育訓練を受けた際のライセンス(当該治療を医療保険で実施する際の必要要件とする、診療報酬上の加算措置を儲ける等、事故による一時停止/取消措置等)について検討すべきである。 3)患者 / 家族向け情報公開によるリスク情報の共有治験や臨床試験をはじめとして、当該医療施設における新規治療法等、通常よりも高いリスクが予想される医療行為については、患者や家族向けの分かり易い記載による説明文書が整備され、医療者と患者との間にリスク情報の共有がなされるべきである。その過程で患者の自己決定を尊重しなければならないことは言うまでもない。 4)習熟プロセスにおける事故例の分析【高松ステント事件(No.69)】高松ステント留置ミス事件は本来食道領域の悪性腫瘍に対する食道閉塞に対して用いられる金属ステントを、十二指腸もしくは小腸における術後腸閉塞の解除を目的として内視鏡下留置を試み、ガイドワイヤーによる十二指腸穿孔が発生した後も開腹下のステント留置に固執し、その後十二指腸穿孔から汎発性腹膜炎、敗血症を続発し、患者が死亡した事例である。 【○○病院胆摘ミス事件(No.77)】この事件は胆嚢炎後の患者に対し腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う際に総胆管結紮を行い、術後胆汁漏、腹膜炎が発生したが術後の検査や対処が不十分であったために敗血症、DICを発症し患者が死亡した事例である。この事件では、【1】術中胆道造影を行い胆道の開通を確認していない、【2】ドレーンからの胆汁の流出が続いていたが処置せず、【3】CT、ERCPなどの追加検査行われず、【4】再手術の必要性についての引継ぎが十分行われなかったこと等が被告である主治医の注意義務違反とされた。 5)事故情報の収集から対策消化管へのステント留置術は悪性疾患(食道癌、胃癌等)により食物の通過障害をきたした患者が、閉塞が解除され経口摂取を可能にすることが期待される治療である。材質や構造等機器の改良により、当初適応とされていた悪性疾患にとどまらず、炎症性腸疾患(クローン病等)による狭窄、腸閉塞への治療への応用が試みられている。腹腔鏡下手術は1990年に胆嚢摘出術が保険収載されて以降急速に普及し、消化器外科、女性外科、整形外科、泌尿器科、形成外科領域等様々な臓器、術式で取り入れられている。術後回復が早い、美容的に優れているといった利点がある一方で、今回検討した事例のように鏡視下手術に伴う事故も問題となっている。 参考文献 |