1章 医療事故を防ぐ仕組みづくり
1-1 死因究明は事故原因究明と医療安全の端緒である
1-2 医療安全のプロフェッショナルオートノミーへの一歩
1-3 医療安全委員会の組織と機能
1-4 届出から真相解明まで
医療の安全は、国民にとって最大の関心事のひとつである。ところが、私たちは医療事故を未然に防ぐための仕組みを十分にもっていないばかりか、起こってしまった医療事故の教訓を医療の質と安全の向上にいかす仕組みさえもっていない。いやむしろ、わが国では、今日に至るまで医療事故をあってはならないこととして覆い隠し、医療担当者個人の責任追及をもって終わりとしてきた。この点においては、病院も監督官庁もマスメディアも、そして医師自身もまた同様の間違いを犯してきたと言える。
診療関連死について警察への届出義務が課され、刑事捜査が先行する事態を招いているために、医療関連死の死因究明態勢について早急に対応を迫られている。しかし、目前の混乱に対処するために、行政組織内に事故調査機関を設置するだけの施策で終わるならば、わが国の医療制度は、またしても医療安全改革の好機を逸することになるだろう。
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1-1 死因究明は事故原因究明と医療安全の端緒である
診療関連死の死因の調査・分析は、医療事故の原因分析の端緒であり、その目的は当事者にとっては紛争の解決、当該医療機関・医療従事者や病院管理者にとっては再発防止に向けた自律的対処・処分、国民と医療界にとっては医療の安全と質の向上に資するものでなければならない(図1)。すなわち新たに創設する機関は、たんに事故原因を究明するだけにとどまらず、医療の安全・質の向上という国民的テーマに応える事業の一環に位置付けられるべきである。
新たな機関の目的を診療関連死の届出先と事故原因の調査・判定に限局するとするならば、評価判定作業は刑事および行政処分のたんなる準備作業になりかねない。そうなれば、紛争解決にも、いわんや再発防止にも、成果を挙げることは望めない。
診療関連死の届出・原因究明機関の創設においては、医療安全に関連する社会制度総体と医療安全の文化をつくることに、政策の焦点を合わせなければならない。
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医療事故原因究明の第三者機関(私たちの提言における医療安全委員会)構想は、厚生労働省補助事業「診療行為に関連した死亡の調査モデル事業」(以下、モデル事業)を経て具体化した。このモデル事業は、同じ医学系学会でありながら人的な交流も乏しく学問文化の著しく異なる諸学会、特に臨床系学会と法医学会の歩み寄りによって初めて実現したものである。そして、わが国ではかつてないことだが、学会すなわち医療界が自律的に中立の立場の専門家による調査の仕組みを構築し始めたものである。これは「同僚審査(peer
review)が歴史的に十分機能してこなかったという問題に真正面から取り組むもの」と評価される。
その動機となったのは、医療過誤が刑事事件として司直の手に委ねられ、再発防止や医療安全とは程遠い業務上過失致死の構成要件を固める目的で調査が進められている実状に対する強い危機意識であった。日本内科学会主導の「第三者機関あり方委員会」を経て、広尾病院事件の届出義務に関する最高裁判所の審理と並行するように同学会および日本外科学会、日本病理学会、日本法医学会の四学会の共同声明に漕ぎ着けたが、これは決して平坦な共同作業ではなかった。さらにほぼ医学系全分野をカバーする主要19学会の支持を受けて実現したもので、その事業は学会から推薦された医師らの献身的な働きによって運営されてきた。
四学会は19学会の支持を得た共同声明の冒頭で、次のように謳っている。「医療事故が社会問題化する中、医療の安全と信頼の向上を図るための社会的システムの構築が、重要な課題として求められている。」すなわちこの事業は、決して医療事故の死因の調査や届出機関の創設をもって終わるものであってはならない。
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1-3 医療安全委員会の組織と機能(図3)
1)医療安全委員会の中立性と独立性
医療安全委員会における事実認定と評価判定のプロセスにおいては、中立性と独立性の確保が重要である。
死因究明において中立性が重要なことは論を俟たないが、直接の死因にとどまらず、視野を事故原因の究明に広げるためには、薬務行政、保険行政および医療制度・医療施設関連政策からの独立性が求められる。医療の安全は、薬や医療機器の安全、医療保険の標準とする医療水準に大きく依存するが、いったん医療事故が生じたときには、医療担当者・医療機関と医療行政当局の利益は往々にして相反する。予算の執行と会計監査院、経済産業行政と公正取引委員会の如く、行政組織のチェックアンドバランス機能は互いに独立していることによって発揮される。
薬務行政は、薬事法に基づく規制色の強い行政機能であるが、それによって、薬の製造販売・流通を厳しく管理し、安全性を担保している。さらに積極的に行政が安全を直接左右することもある(血友病非加熱製剤による薬害エイズ問題等)。また保険行政は、省令*により療養の範囲を定め、療法を限定(同規則第18条)し、また診療報酬の設定を通じて必要な検査、適切な処置について誘導し、薬物の保険適応について詳細に規定している。また厚労省は、医師や看護師の配置基準、病院の設置基準、安全基準を所轄している。医療事故の真相究明と再発防止の活動は、このような行政当局から相対的に独立していることによって初めて、医療行政に対する適切なチェック機能を発揮することができよう。
*保険医療機関および保険医療養担当規則
2)なぜ、独立性が必要か
医療安全委員会を厚生労働省の行政組織の枠内に置くことは、独立性の観点から好ましくない。
一例として、2005年3月の東武鉄道竹ノ塚踏切事故における鉄道事故調査委員会の問題を示す1)。この事故は、「開かずの踏切」で長時間待たされる群衆の有形無形の圧力から踏切保安係が、内規に反して、長年、遮断機の早上げ防止装置を使用せず、こうした中で、踏切を渡ろうとした歩行者など4人が死傷する事故が起きたケースで、踏切保安係のみが刑事責任を問われたが、事故の実質的調査はなされなかった。国土交通省令による鉄道事故調査の対象は5人以上の死傷事故と定義づけられており、これに該当しないが、調査の必要を訴え、遺族代理人が例外条項を根拠に調査を求めた。しかし国土交通省の判断により調査は行われなかった。
事故原因に監督官庁が関わりをもつこともあり得るなかで、事故調査の開始決定権を調査機関設置官庁に制約されるのでは、実質的な事故原因を調査して再発防止につなげることはできない。厚生労働省の幅広い権原から考えて、調査機関には独立性が求められる。
たとえばある状況下での妥当な医療上の判断(医療水準)は本来医療専門家の相互評価(peer
review)によって決定されるべきもので、司法当局が選ぶ参考人や鑑定人によって決められるべきものではなく、また、しばしば財政的な制約を受ける政府の医療政策や保険行政の影響は避けるべきである。医療安全委員会は、あくまでも医療安全の向上を目的とし、時々の行政から独立して、また刑事責任および行政責任の追及とは異なる観点から機能すべきものである。
3)4つのステークホルダーからなる医療安全委員会
医療安全委員会は、法律にもとづいて行政委員会として設置されることが望ましい。
行政委員会としての医療安全委員会は、市民、医師、法律の実務家、安全管理専門家の四者の委員によって構成され、事務部局が実務を行う。四者は、それぞれ複数の委員を選出するべきである。
地方医療安全委員会も意思決定機関は中央と同じく四者の代表から構成され、事務部局および原因分析にあたる調査委員、届出の初期判定を行う委員など専門委員を民間から選び、その職務を委嘱する。
四者とは、次の如くである。市民代表として学識経験者、ジャーナリスト、行政実務経験者などから募る。また、医療の受け手を直接代表する者として患者会代表者などが参加できれば、なおよい。医療の担い手の代表は、地方医師団体および病院団体の推薦を受けるが、それぞれの団体の役職にないものとする。また病院勤務医師および看護師等のコメディカルを含むことが望ましい。法律の実務家は、民事あるいは刑事の医療事件の経験があるものが望ましい。安全管理専門家は、医療安全のみならず企業の品質管理責任者など幅広く地域の有為の人材を求めるべきである。
4)中央と地方の関係
医療安全委員会は行政委員会として設置することが望ましいが、その組織形態としては、国家公安委員会と都道府県の公安委員会あるいは中央労働委員会と都道府県労働委員会が参考となる。
原則として、診療関連死、医療事故の届出受付から事実認定、事案の判定、処分の決定、監査、教育等一連の実務は地方組織に委ねられる。事故情報および処分情報の収集、分析評価、再発防止策の通知・通達等はおもに中央医療安全委員会が担う。また中央安全委員会は、地方安全委員会の判定に不服がある場合の上級審の役割を果たすと共に、公益通報(内部告発)の通報先となる(図3)。
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1-4 届出から真相解明まで(図4)
1)「診療に関わる予期しない死」の全例届出
新たな制度では、原則として診療行為に関連した死亡のうち、診療行為からは通常予期しない死亡(または死亡に比類するもの)(以下「診療関連死」という)については全件、医療安全委員会に届出ることとする。医師あるいは医療機関は、予期しない死に遭遇した場合、届けるべきか否かについて検討することなく、全例を届け出るべきである。「予期しない」か否かについて議論になる事例であろうが、議論の余地があるものはすべて届け出るべきである。また、たとえ患者遺族が届出に消極的な場合でも、届出が義務であることを伝え協力を求めるべきである。こうして事故を「隠さない」ことが医療機関の常識になれば、遺族もまた、不信感を増幅する余地がない。たとえ「隠す」意図がないにせよ、医師あるいは医療機関が届出に慎重になるなら、紛争解決から国民の医療安全までを目的にした新たな試みの価値は半減してしまうだろう。
2)診療関連死についての届出先の規定
厚生労働省は、「診療関連死の警察への届出」方針を転換するため、「死因究明検討会」(座長・前田雅英教授)などによって、新たな死因究明機関の設置を検討してきたが、その第二次試案によれば「診療関連死の中にも刑事責任を追及すべき事例もあり得ることから、警察に対して速やかに連絡される仕組みとする」とされ、刑事責任を診療関連死の「刑事責任を追及すべき事例」を類型化することなく、また刑事/非刑事の線引きの判断を司法に委ねている現状を変えようとしていない。
広尾病院薬剤誤投与事件最高裁判決(平成16年4月13日)では、医師自らが診療したかにかかわらず、医療過誤によって死亡した場合には、医師法21条の適用を肯定した。
同判決を受けてこれまで、診療関連死についても医師法21条による警察届出が行われてきたが、医師法21条の趣旨が、「死体または死産児については、殺人、傷害致死、死体損壊、堕胎等の犯罪の痕跡を留めている場合があるので、司法警察上の便宜のためにそれらの異状を発見した場合の届出義務を規定した」(厚生労働省:医師法解第16版)もので、警察が犯罪捜査の端緒を得て、被害の拡大防止を講ずることを目的としていることからすれば、善行原則に則って行う医療行為について、広く届出の対象にするのは、その趣旨によるところではない。
したがって、新たに医師法21条に2項を創設し、診療関連死についての届出先を医療安全委員会と明記すべきである。
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3)初期判定員の構成とそのトリアージ
「診療に関わる予期しない死」の全例届出は、当然、届出数の急激な増加をもたらすであろう。そのため、急増した届出事例を効率よくかつ適正に処理できなければ、届出の信頼性は確立できない。そこで、新たな制度では、本格的な事故原因の究明に着手する前に、初期判定員が、医療安全委員会で受理する事例かどうかを判定する。即ち争う余地のない刑事犯罪については、従来の医師法21条により届出をすべきであり、また明らかに診療関連死に該当しないケース(臨床上避けられない死など)については、受理しないことになる。
【1】臨床上通常予期される範囲内の転帰であれば、死因究明対象にはならない
【2】争う余地のない刑事相当の類型は、警察の捜査に委ねる
争う余地のない刑事相当の類型(2-4で詳述)
- 故意または未必の故意がある場合
- 証拠隠滅、虚偽診断書作成、カルテ改竄、届出妨害により、正確な調査が不可能な場合
その次に地方医療安全委員会の原因調査分析委員が引き受けるべき事例か、それとも医療機関内の調査委員会でのみ調査を進めるべき事例か、判定する。死因分析機関であるから、死因が不明の場合は地方医療安全委員会の原因調査分析委員が引き受けるが、死因の明・不明のみをもって篩い分けたのでは、本来の趣旨を果たし得ない。
事故から24時間以内に、医療機関内の事故調査委員会を開かなければならないが、新しい仕組みでは、連絡を受けた地方医療安全委員会の初期判定員(複数)が、この内部事故調査委員会に参加する。そこで、初期判定員が、内部調査のみで進める事例か、第三者機関である地方医療安全委員会に諮るべき事例であるかを判定する。なお、内部事故調査委員会が実質的に開催できない医療機関の事故については、すべて地方医療安全委員会で調査する。その篩い分けの判定基準は、次の通りである(図4)。
【3】 死因がほぼ明らかで、内部事故調査委員会で、個人の過失要素が小さいと認識されている場合は、医療機関内の調査委員会のみで調査する
【4】 死因あるいは事故原因が不明な場合および内部事故調査委員会で医療者個人の責任が大きいと評価されているケースは第三者機関、すなわち私たちの提案でいう地方医療安全委員会の原因調査分析委員会に調査を委ねる。必要な場合には速やかに遺体解剖を行う。
【3】の適応となる判定基準としてシステムエラー要素の大小は考慮しない。すなわち個人責任大だがシステムエラーと認識されてい驛Pースも、個人責任要素のみを見て地方医療安全委員会で扱う。その理由は、調査なしにシステムエラー要素は明らかにならないからであり、我々の一連の研究によると多くの医療事故はシステムエラー要素が大きく関わっているので、篩い分けの指標として適切でないからである。
つぎに、個人の過失要素が大きい事例を【4】で扱うのは、個人の過失が明らかに医療事故の原因であるようにみえる事例では、病院管理者・経営者と医療担当者との利害対立を必然的に生み(2-6に詳述)、上下医師間あるいは同僚医師間の間においても利害対立を生じやすく、医療機関内部では公正な調査結果が期待できないことが多いからである。
このような篩い分けでは、事業開始当初の地方医療安全委員会の負担は大きく、診療関連死のかなりの部分を扱わなければならない。少ない判断材料で即座に判定せざるを得ず、いわばトリアージ特有のリスクをもっているため、特にその傾向が強くなるであろう。そのために、より多くの部分を医療機関の内部調査を信頼して委ねるべきであるとする意見が起こるであろうが、図5に示すように、私たちは医療安全の新たな文化を創造する産みの苦しみを受け容れるべきである。
現状では、患者遺族および医療提供者双方に、事故に際して個人責任を問い、それを責任を受けとめる文化が根強くある。このため、特に個人責任追及に傾きやすい事例については公正を期す必要がある。また、ほぼすべての医療事故事例はシステム要因が大きくかかわっているのであるから、内部調査委員会で、「個人責任要素が大きい」と判断している場合は、原因調査が医療機関内部では公正に進まない可能性が高い。そして、このようなケースでは、医療者相互、医師の上下関係、医療機関と医師の間でほぼ確実に利益の相反が生ずるので公正な調査判定が妨げられやすい。
私たち市民が、患者も医療者も「人は誰でも間違える」という冷厳な事実を受けとめ、事故を医療安全の教訓として生かすために実質的な事故原因に関心を集中するようになれば、次第に第三者機関への依存度が下がり、内部調査で多くの事例が調査されるようになるであろう。そのようにして図5の医療事故全体を減じなければならない。
第二試案では、私たちが提言する初期判定員に相当する考え方はない。またデル事業においてもこのような考え方はなかったが、敢えて言えばモデル事業地域代表が、モデル事業で扱うことの可否を判定していた。ただ、モデル事業においては医師法21条による異状死の届出義務が課せられていたため、その役割はむしろ警察への届出を優先するようにアドバイスすることであり、扱うケースを事件性の低いものに限定することであった。
これに対して、ここでは当初から刑事責任を追及するべき事例は厳格に類型化されており、診療関連死の届出先はこの機関に一元化される。
初期判定員は、法律家、医師、看護師など少数の専門家からなり、事務官からの連絡に応じて医療機関に出向き、原因調査や警察への通報の要否を合議判定する。また、初期判定員の全員が類型化された刑事事件にあたると判断した場合には、初期判定員が警察に通報する。警察で捜査されることになるであろう事例でも、議論の余地があるものは、いったん地方医療安全委員に送るのが適切だろう。
初期判定員となる、法律家、医師、看護師は、24時間365日対応しなければならないが、専業の者が常時特定の場所で待機している必要はない。限られた予算で、専門家を常時雇用することが困難であれば、地域の医師会、病院団体、看護師団体、弁護士会などの専門家団体から、本業と兼務で人材の提供を受けるなどの方策を検討すべきであろう。
予算不足を理由に、届出を限定するような施策をとるべきではない。
実績を積み重ねることにより内部調査で済むものは内部調査を推奨することになる。解剖の上、慎重に議論を要する事例の割合は時を経るに従って次第に低くなるものと想定される。
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4)原因調査分析委員の構成(図6)
死因の調査・判定から事実認定、事故原因の解明および再発防止策を提言する原因調査分析委員の活動は、地方医療安全委員会の核となる活動である。この仕組みはモデル事業から、できるだけ多くの教訓を引き出すべきである。
まず、モデル事業においては、地域代表の医師が責任者となっていた。医療安全委員会における原因調査分析委員会にも、解剖に携わる医師および法律実務家の参加が必要だが、たんなる不審死の判定ではないので、そこには必ず臨床医が参加すべきである。従来、司法解剖に臨床医が参加することは稀で、行政解剖は監察医によって行われてきたが、診療行為の結果生じる医療過誤の死因解明にあたっては、臨床医の参加が欠かせない。モデル事業の成果は、この点については厚生労働省の第二次試案においても生かされており、評価に値する。
モデル事業の委員は大学教授らの兼務であったため、スケジュール調整が難しく調査に長期間を要した。死亡から半Nも経たなければ調査結果が出ないという仕組みでは遺族の理解は得られにくいであろうし、正確な事実関係の認定にも支障が生じる。多くの役職を兼任していない若手医師(卒後15年から25年目前後)を多数登用することが望ましい。この業務に携わることは、臨床医として稀な事例を客観的に検討し、議論できる機会になる。その効用を十分に伝え、向学心に富んだ臨床医の参加を得るべきである。人材登用においても、プロフェッショナルオートノミーの原則から、各地域の学会、医師会、基幹病院が医師を積極的に派遣し、任期終了後は再び元の病院へ戻れるようにする。この制度が、医師のプロフェッショナルオートノミーなくしては成り立たないことを医師自ら自覚する必要がある。
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5)原因調査分析の手順
解剖の必要性の判断は、原因調査分析委員がおこなう。解剖には可能な限り遺族の理解を求めるが、遺族の同意が得られない場合でも、死因の確定に解剖が不可欠であると判断した場合は、医療安全委委員会の職権をもって解剖を行うことができるように必要な立法措置を講ずる。事例を集積することにより解剖の必要な事例は次第になるものと想定される。
調査は、遺族を含む当事者、関係者からの聞き取りや病院関係部分の精査、カルテ等書類の審査そして必要に応じて施行される遺体解剖からなるその結果について複数の専門家が考えを披瀝しあった(ピアレビュー)上で、事実の認定、評価を行い、再発防止に向けた対応策処分については地方医療安全委員会の協議に委ねる。また、解剖に画像診断を融合させた技術であるオートプシーイメージングなども活用に値するであろう。
この原因調査分析が行われている間は、もし遺族から捜査の依頼や告訴があった場合でも、捜査に評価判定を利用すべきなので、評価判定結果が出るまで捜査機関は待機することが望ましい。また事故原因の調査分析の過程で、刑事の類型(I、II)にあたると認められた場合には、地方医療安全委員会を開いて協議し、争う余地がない場合には、捜査当局に通報する。
6)メディエーションスキルを持った調整員の配置
原因調査分析委員会が、遺族・医療機関からの情報収集したり、原因分析結果を遺族に説明する際、看護師などの調整員が同席し、終了後遺族の語りを傍にいて聴き、説明され内容のただしい理解が図れるように支援する。特に愛する家族を突如喪うことによる、遺族の喪失と悲嘆からの回復には、長い時間を要するため、継続した支援を行う。
引用文献
1) Leflar RB, 三瀬朋子: 医療安全と法の日米比較, ジュリスト, No.1323, 8-19, 2006
2) 米倉勉: 鉄道事故における事故原因の解明と刑事責任追及のあり方について, コーポレートコンプライアンス, 季刊第8号
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