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3章 付表 |
提言要旨
死因究明の目的診療関連死の死因の調査・分析は、医療事故の原因分析の端緒であり、その目的は当事者にとっては紛争の解決、当該医療機関・医療従事者や病院管理者にとっては再発防止に向けた自律的対処・処分、国民と医療界にとっては医療の安全と質の向上に資するものでなければならない(図1)。 「だれ」から「なぜ」へ診療関連死の死因究明を端緒とする第三者機関(私たちはそれを本提言では「医療安全委員会」と仮称する)の創設は、医療事故の真相究明を、「だれ(Who)」から「なぜ(Why)」へと根本的に転換する、またとない機会であり、密室の中にあった、わが国の医療の透明性を確保し、安全文化を構築する好機である。このため医療安全委員会は、たんに事故原因の究明や紛争の解決だけでなく、医療の安全・質の向上という国民的テーマに応える事業の一環に、この死因究明機関を位置付けなければならない。 以上の目的を達成するためには、次の三点が鍵となる。 1.届出から医療安全までの一貫性「医療安全委員会」は、すべての診療関連死(診療行為に関連した死亡のうち、診療行為からは通常予期しない死亡をいう)の届出先となり、中立・公正な調査・分析に始まり、事故の根本原因の究明、再発防止策の提言までを一連の職務する。そこでは専門家同士のピアレビューによって医学的に適正な見解を導くべきであり、さらに法律家、市民を加えて中立・公正な評価を下す仕組みを構築しなければならない。 これをこの仕組みの「入口」とするならば、その評価分析結果の十全の活用を「出口」として、「入口から出口まで」の一貫した仕組みとしなければならない。そのような医療安全委員会のスキームを提案する(図2、4)。 2.プロフェッショナルオートノミー医師は、自己の職業的行為を自ら厳しく律する行動すなわちプロフェッショナルオートノミーを求められており、それをもって初めて職業的自由を得ることができる。このため医療関係者および医療機関は、医療安全委員会の原因究明に進んで協力するとともに、その判定結果に、自ら自律的な再教育プログラム、積極的な再発防止策および公正な処分をもって応えるべきである。その成果は、医療事故再発防止のための国民共有の資産として、活用されなければならない。また、平時からの研鑽プログラムを制度化し、かつ事故時における自律的改善に努めることで、国民の信頼を確保する。 3.刑事責任の類型性の確立これまで死亡医療事故は、医師法21条により警察へ届け出られることから事故が「誰の」過失によるものかを追及されてきた。そのため、そもそもその事故が「何故」発生したかの根本原因の分析が十分になされず、再発防止策の策定に資することがなかった。。刑事責任を追求しなければならない医療事故は、応報、秩序維持の視点から、そしてリスクを伴う医療行為が萎縮してしまわないように、厳格に類型化することを要する。そこで、医療犯罪として、警察への通報を要するものは、以下の類型とする。但し、どれも争う余地のないほどに明確な場合に限定される。 また、たとえ重大な過失あるいは未必の故意が疑われるケースでも、医療安全委員会の検討が優先し、警察への通報は控えるべきであり、警察官が医療の専門家の意見を参考にしなければ捜査が進まない種類の事件については、仮に被害者から告訴があった場合でも警察の捜査そのものが控えられることが望ましい。 医療安全委員会が適正に機能し、その原因分析が、迅速かつ信頼性が高いものであって、早期に適切な対応、処分がなされるようになれば、告訴はまず医療安全委員会の原因分析を待ってからということになろう。 第三者機関(仮称・医療安全委員会)構想は、以上の鍵となる概念を重視して、医療関係者の積極的な自律的活動を支援し、既存行政機関の整理・再組織化及び法改正等の整備をもって進めるべきである。 |