「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する意見

1. 幅広い届出と初期判定員(メディカルエグザミナー)の設置を求める

第32 医療法の一部改正
(2)届出義務等
次の死亡又は死産(以下「医療事故死等」という。)に該当すると認めたときは、その旨を当該病院又は診療所の管理者に報告しなければならない。
① 行った医療の内容に誤りがあるものに起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産
② 行った医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、その死亡又は死産を予期しなかったもの

① 「行った医療」;前医の行為を含む必要があるため「行われた医療」とするべきである。
  「誤りがあるものに起因し」;過失の有無の判断を調査に先んじて求めるべきではない。

② 「行った医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、その死亡又は死産を予期しなかったもの」
 死亡との因果関係の判断を調査に先んじて求めるべきではない。予期しうる偶発症か否かは、ピアレビューに委ねるべきである。

届出を義務化するために、届出すべき事案を厳格に規範化しようとしたものであろうが、原因究明をまって初めて明らかになる過失や因果関係の判断を、事象の生じた初期の段階で、医療機関に求めるという矛盾を孕んでいる。
 我々は「広く届出を受けて初期判定員がこれを仕訳する」仕組みを提案してきた。検討会において高本委員が「メディカルエグザミナー」と呼んで、繰り返し提言したものである。この仕組みは、届け出事象のグレー部分の判断(過失の有無、死亡と医療行為との因果関係)を医療機関に委ねることなく、幅広い届出を促す。その一方で、臨床経験豊富な医師が、初期判定員(メディカルエグザミナー)の任に当たることにより、医療安全委員会の取り扱い事案を合理的な範囲に絞るとともに、院内調査に相応しい事案か否か、事故原因の究明を進める院内調査が当該医療機関において可能か否かを判断し、院内調査とする場合には、その人的サポート態勢を提供する。また地域の状況に応じて省力化を進めることも可能であり、そして何よりも初期判定員(メディカルエグザミナー)の存在が、第三者機関による事故調査をプロフェッションの自律的活動として機能させる鍵となる。
 繰り返すが、遺族・国民の切なる願いは、紛争の解決ではなく、まず何よりも事故原因の究明である。真相究明努力のない紛争解決は、欺瞞に他ならない。医療機関が、「隠さない、逃げない、ごまかさない」という姿勢を取ったとき、紛争は自ずから解決に向かう。これは名古屋大学医学部附属病院など、この姿勢を貫いている医療機関で、すでに実証されている。
 判断に迷うグレー部分をできるだけ幅広く届け出て初めて、医療安全を目指す委員会は警察に代わる診療関連死の届出先として国民の認知を受けるであろう。

第2 定義
1 この法案において「医療事故死等」とは、第32の(2)の1の医療事故死等をいう。

「医療事故死等」の定義は第32の(2)を引用し、第32(2)は(4)の1の基準に照らしとの引用になっている上、最終的に医療事故死等に該当するか否かの基準を「○○大臣が決める」とされている。現場の状況により複雑で流動的な医療において医療事故死等に該当する基準を官庁が一律に決定することは適切かつ妥当でない。第32条(4)の2で、○○大臣は、学術団体及び医療安全調査中央委員会の意見を聴くとされているが、意見を聴くにとどまらず、中央医療安全調査委員会等に諮問し、その答申に基づき判断するなど、専門家相互のピアレビューを尊重すべきである。

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