医療安全調査委員会構想の問題点
診療関連死の死因究明第三者機関・第3次試案に対する意見

3.「重大な過失」の判断を委員会に負わせない

【捜査機関への通知】(39)〜(40)  該当部分を参照

i)「重大な過失」の扱い

(40)・・・試案では、地方委員会から捜査機関に通知する事例のなかに「重大な過失」(40-3)を含めているが、「重大な過失」の判断は法的評価を伴わざるを得ず、過失判断という十字架を地方委員会に背負わせるものとなろう。これは、委員会の趣旨に反する。そして、その判断基準として地方委員会に「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療である」か、否かの判断を求める(40-3)が、「標準的な医療行為」というものは、必ずしも確立されていないので、医学的な判断ではなく法的な判断となる可能性が高い。これは報告書に「標準的な医療行為からどのように逸脱しているか」を記せば足りるのであり、捜査機関は司法判断から独自にそれを評価して捜査するものとすべきであり、過失判断は司法当局に委ねるべきである。
(40-1)・・・診療録等の改竄を捜査機関への通知事例としていることは妥当であるが、現在の刑法では、診療録等の改竄に充分に対処できていない(他人の刑事事件との関係で、カルテ改竄した場合には、証拠隠滅罪になるが、自己の刑事事件で改竄した場合には、何の罰則もない)。このため、診療録等の改竄については、刑法上の対処を提案するべきである。
試案別紙3・・・なお、「捜査機関との関係について」で、「今回の制度は、委員会からの通知を踏まえ、捜査機関が対応する」「刑事手続については、…委員会からの通知の有無や行政処分の実施状況等を踏まえつつ、対応する」と述べているが、司法当局の捜査は本来、委員会からの通知や行政の処分と独立したものである。司法当局が、当該地方委員会の調査を尊重するか否かは、一重に医療機関の包み隠すことのない届出と委員会の公平性・透明性の高い調査の実施に依存するものとせざるをえない。そのような厳しさの中で初めて、医師のプロフェッショナルオートノミーが真価を発揮するであろう。

ii)出口部分に関するその他の問題

【行政処分】(46)〜(49)   該当部分を参照

(46)(47)(48)・・・試案が、医療事故のシステムエラーとしての側面に注目し、システムエラーの改善に行政処分の重点を置いた点は、高く評価できる。ただし、システムエラーの改善、医師の教育処分が実効性をもって実施されたか、否かを後日検証する仕組みを構築する必要がある。また、行政処分以前に医師の自律的な教育が機能するような仕組みを作ることが、何よりも重要である。学会レベルで、医療事故を繰り返した医師に対する再教育プログラムの試みも行われており、そうした試みから専門医の再認定に至る公正な道筋も示されるであろう。こうした、試みは隣接学会にも拡がるであろう。この制度の成否は、何よりも、医師・医療関係者の積極的協力と自律的な調査・再発予防策への取り組み如何にかかっている。入口(届出、調査分析)における積極的参加は、出口(再発予防策、教育処分)によって誘導される面もあるだろう。届け出て調査を受けることを無過失補償保険支払いの条件とするなど、事故届出に対するインセンティブも種々考慮すべきであろう。
(48-2)・・・また、個人の行政処分に関しても業務の停止よりも再教育を重視した点は評価できるが、さらに鉄は熱いうちに打つべきであるので、臨床研修の必修項目に、「事故調査委員会での症例検討に参加する」を加えるなど、医療事故予防を考慮した人材育成と、この委員会のサポートを有機的に関連づけることが有効であると考えられる。因みに、名古屋大学病院では、合併症&死亡症例カンファレンスへの研修医の参加を義務化している。医療事故の事例を契機に、教育と調査と研究を関連づけることの重要性を強調しておきたい。

【実施に向けて】(4おわりにの部分)  該当部分を参照

法が成立してから施行されるまでに、2〜3年の十分な準備期間が必要であることは、試案の中でも指摘されているとおりである。

準備期間内にマンパワーの確保と分析評価の方法、評価報告書の書き方などのトレーニングをする必要がある。また、後期高齢者医療保険制度の二の舞にならないように、広く国民、医療機関とともに実施方法を検討し、現場への周知徹底が必要である。

そのためにも、現行法下で行っているモデル事業において、医師法21条により異状死の届出がされたケースにつき、直ちに捜査機関が動くのではなく、まずはモデル事業で原因分析をしていく取組みを、捜査機関の協力のもとに実施すべきである。モデル事業名古屋地区では、すでにそのような流れで、実務が行われている。その事例をモデル事業として積み重ね、検証していくことが法実施に当たって、混乱を防止するもっとも有効な方法である。

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