医療安全調査委員会構想の問題点
診療関連死の死因究明第三者機関・第3次試案に対する意見

財団法人生存科学研究所 医療政策研究会
東京大学大学院医学系研究科教授 東京大学医学部附属病院 医師 研究班顧問 矢作直樹
神谷法律事務所 弁護士 主任研究員 神谷惠子
有限会社 秋編集事務所代表取締役 主任研究員 秋元秀俊
医療ジャーナリスト 尾崎 雄
東京女子医科大学病院 医師(神経内科) 小林正樹
北里研究所病院 医師(内科) 竹下 啓
国立成育医療センター総合診療部 医師(小児科) 土田 尚
東京大学医学部附属病院 医師(整形外科) 中島 勧
東京女子医科大学病院医師(心臓血管外科) 西田 博
日本医科大学附属病院医療安全管理部 看護師 長谷川幸子
東京大学医学部附属病院 医師(循環器内科) 山田奈美恵
国立がんセンター がん対策情報センター 医師 渡邊清高

趣旨

政策決定において、専門家や多様な利害関係者の意見に耳を傾けることは、極めて重要なプロセスです。その意味で、この医療安全調査委員会(以下委員会)の政府案づくりのプロセスは、繰り返し試案を公開してパブリックコメントを求め、また在り方検討会委員が世論を汲み取って議論した点で、評価されるべきでしょう。細部に目配りされた第3次試案(以下試案)の記述に、その努力が読み取れます。しかしながら、届出が医師の責任追及につながるとする短絡的な反対論に大きく影響を受け、委員会の守備範囲が実質的に狭められたことは、医療安全の向上という設立目的そのものを実質的に損なうものとして問題視せざるを得ません。

診療に関わる死因究明機関設立の機運は、1999年の横浜市立大学病院患者取り違え事件や広尾病院消毒剤誤注射事件を契機に、医療事故の刑事責任追及が過熱し、通常予期しない診療に関わる患者の死亡に際して、警察への届出義務が課せられる(2004年4月最高裁判決**)という経緯のなかで、医学界の自浄力を発揮するかたちで生まれたものです。それにもかかわらず、最終的には、2006年2月、福島県立病院の医療事故で産婦人科医が逮捕・起訴されたことを契機とした勤務医の危機感、すなわち『医療崩壊』という文脈のなかで、このテーマは翻弄されつづけています。結果的に、歴史の針を広尾病院事件より前に巻き戻し、「医師側に有利か否か」という歪んだ議論の影響下に、この第3次試案はつくられています。とくにこの委員会で扱う事案すなわち届出を狭く限定したところに、委員会の目的との乖離が生じています。

委員会の創設は、医療事故の真相究明を「Who(だれ)」から「Why(なぜ)」へと根本的に転換する好機であり、このためにたんに紛争解決だけでなく医療の質・安全の向上という国民的課題に応える事業であるという理念を、今一度取り戻すことを願って第3次試案に意見を述べます。

試案について改善すべき主な点は、次の3点です。
1)厚生労働省からの独立性を明確にする
2)届出の範囲を広くして、篩い分けを行う責任ある第三者を置く
3)「重大な過失」の判断を委員会に負わせない

* 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会
**「死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因につき,診療行為における業務上過失致死等の罪責に問われるおそれがある場合にも医師法21条にいう届出義務を負う」(2004年4月最高裁判決),これは憲法38条1項(何人も自己が刑事責任を問われるおそれのある事柄について供述を強要されない)に抵触しないことが確定判例となっている。

以下、試案の段落を(X)で示し、それに即して意見を述べます。

▲TOP